例の事件に触れないわけにはいかないだろう。 いまから三年前、小学三年生の夏休み。 すべてはあの日から始まったのだ。 子どもが4人しかいない小さな島で、子どもたちは「ゆーちゅーばー」になることにした――『#拡散希望』は、ミステリー界で最も有名な文学賞のひとつ「日本推理作家協会賞」の第74回短編部門を受賞した。 同作が収められたミステリ小説『#真相をお話しします』は、発売1カ月で11万部を超える異例の大ヒットとなっている。 作者は、1991年生まれの結城真一郎さん。YouTuberやマッチングアプリ、リモート飲み会など、令和を生きる私たちには身近なシーンを舞台に、鮮やかに読み手を裏切っていく快作だ。 YouTube大好き!と語る結城さん。小説家に、熱いYouTube愛を語ってもらった。 かなり見てますね。食後の5分10分ちょっと暇だなって時とか、執筆してていまいち筆がのらないなって時とか、細切れの時間の娯楽は、ついYouTubeを開いちゃいます。 人生の総計で言えば本を読んでいる時間が長いと思うんですけど、今はYouTubeの方が長いんじゃないかな。物書きの中では、かなり好んで見ている方かなぁと思います。 ――特に好きなYouTuberは? 「東海オンエア」と「QuizKnock」はだいぶ見てますね。大好きです。 ――まさに作中でも東海オンエアのオマージュのようなあいさつがありますが。 そうですね。「やあどうも」ってこれは完全に東海オンエアのインスパイアです。 作品の中でも書いたんですけど、自分がやりたいけどやれないことをやっているとか、そもそも思いつかないようなことを思いついて実行しているとか、そのクリエイティビティがいいですよね。 「頭からっぽにして笑いたい!」って気持ちもあるんですけど、その角度から攻めるのか!とか、このテーマでこういう企画もできるのか!っていう発想に新鮮さを感じますね。 それ自体を作品に活かすというより「この人たちは世の中をこういう風に見てるんだ」っていう発想そのものがすごく勉強になります。

0文字クイズとワンオペ育児

――QuizKnockも東海オンエアもすごい数の動画がありますが、好きな企画はありますか? もうあげはじめたらキリないですよ!(笑)本当にただただファンで、たくさん見てるんで。 QuizKnockだと、伊沢(拓司)さんとの対談でもお話したんですけど「視聴者置いてけぼり」シリーズはすごく好きですね。 わかる人はこれでもわかるんだ〜という驚きもありますしね。 ――伊沢さんでの対談でも「視聴者からすると動画内で不可能犯罪が起きているようなもの」と話していましたが、確かにミステリっぽさありますね。東海オンエアはずいぶん雰囲気が違いますがどうですか? 東海オンエアは……いい意味でくっだらないな!ってことや、とにかく自分たちが面白いと思ったことを全力でやってるのが最高ですよね。 最近のやつだと、ワンオペ育児体験かな。子どもがいるメンバーが赤ちゃんになりきって24時間他のメンバーにお世話にしてもらうんですけど……。 赤ちゃん役はおむつをして、大も小もそこでして、カフェに連れていったら大騒ぎしてお漏らしして。 爆笑しちゃうんですけど、見ていると「やっぱ育児大変だよな」「親って偉大だな」って実感としてわかるところもあるんですよね。 「ためになる」とまで言うとちょっと言い過ぎですけど(笑)単にバカやってるじゃなくて、ときたまちょっとした学びや気付きを得られるのも、彼らの魅力だと思います。 本当に好きなんですよね〜東海オンエア……。チャンネル登録はもちろんしてますし、動画公開されたらすぐ見るし、時間が合う時はプレミア公開を待ってライブで見てます。 ――帯コメントもメンバーの虫眼鏡さんからいただいてますよね。 これはめちゃくちゃうれしかったです!「虫眼鏡さんだ〜!」ってファン気分で喜びました(笑) それはものすごくありますね。自分がYouTube大好きな人間なので、おもしろいのは心底わかってるんですよ!これだけ刺激的で、無料で、無限に次のを見られて。最高ですよね。 ――それは感情で言うと「悔しい!」って感じなんですか? うーん、悔しいよりも「もったいないよ!」ですかね。 何冊か読んでみて「いや、本ってつまんないな」と思ったらそれを否定するつもりはないんですけど、他の娯楽を楽しめる力があるなら、本も読んでみるときっとおもしろいよ!って思うので。知らないまま人生が過ぎていくのはさみしいじゃないですか。 「YouTubeね、そっちもいいっすよね、でもちょっとこっちも立ち寄ってみてくださいよ!」って呼び込みしてるような気分です。「よかったら少し時間わけてくださいよ〜」って。 まさにそうですよ、入り口までご案内して。やっぱり本を読む習慣がない人が手を伸ばすってハードル高いじゃないですか。 「入り口」になれる可能性があるのは、身のまわりのものが題材になっているもの、そして短編じゃないかな、というのが今作を書いた動機のひとつです。 1話40ページなら、早い人なら20分ちょっとで読めるはず。そうするとYouTube動画1本分くらいですよね。「それなら自分でもイケるかも?」って思ってもらえるかなと。 ――YouTube1本で短編1話、という換算はおもしろいですね。 正直、YouTubeとかSNSを食えるほど今後「読書」って趣味が戦えるかと言うとかなり悲観的なんですよ。だからといって、それらに駆逐されていくのをただ黙って見ているのはちょっと歯がゆいので……。 抵抗しつつ、少しでも割り入る余地があればそこを突破していきたいなって気持ちですね。 ――でも10万部という数字を見ても、結城さんの狙い通りというか「YouTuberが出てくるミステリ小説?なんだ?」と思って手にとった人もきっと多いんじゃないでしょうか。 自分が想像したより広く届いている感覚はあって、それは本当にうれしいですね。 「小説、意外におもしれーじゃん」と思った人が、僕以外の人の作品も手にとってくれたらいいなと思います。

読者をびっくりさせるのは本当に楽しい

――28歳でデビューして、4年目です。今後書きたいテーマはありますか? 長編、短編も含め、あまりこだわりはないです。 考えていきたい、訴えたいテーマが大きくある感じではなくて、常に生きている中で気になるトピックを引っ張ってきたいタイプなので、題材が浮かぶ限りやれることをやりたいです。 ただ、ミステリからは離れないんじゃないかな。もともと読み手として好きなジャンルですし、書き手としてどんな風に読者をびっくりさせようか企んでいる時間は本当に楽しいので。 作品によって濃淡はあるかと思いますが、何らかかの謎があって、ある程度伏線をたどっていくと導けるような、あとから「こういうことだったのか!」と気づく楽しみがあるスタイルで書き続けていきたいですね。 ――読みながらこれドラマで見たいな!と思いました。どんでん返しもあり、リアルな現代社会模様もあり、ドラマになったら絶対見ごたえがありそう……。 したいですよねぇ。ぜひお願いします、テレビ局の皆さん! ――ぜひ『元彼の遺言状』と同じ月9でやりましょう!(『元彼の遺言状』作者の新川帆立さんは、結城さんの東大法学部の先輩) 月9はちょっと不適切じゃないですか!? わりとあっさり殺されちゃいますけど平気ですかね?(笑) 深夜帯……月12くらいでよろしくお願いします!

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